「ジャーナリスト」5月号書評から転載します。5月号は他に『新聞社 破綻したビジネスモデル』 川内孝著 (新潮選書 700円)、『鑑真和上 故国の土を踏む』 十シマ英明著 (草の根出版会 2600円)を取り上げています。
紹介は『革命のベネズエラ機構』 新藤道弘著 『普通の国になりましょう』 C・ダグラス・ラミス著。
書評
『ブッシュのホワイトハウス 』 ボブ・ウッドワード著 伏見威蕃訳
(日本経済新聞出版社 上、下各1800円)
本書は、パパ・ブッシュが長男を自身につづいて大統領にと活動をはじめる1997年秋から2006年6月までの、ホワイトハウスに関わった政治家たちへの厖大な取材の記録である。『ブッシュの戦争』『攻撃計画』とあわせて三部作と言われるが、この前二作が特定のテーマに絞られているのに対し本書はブッシュ政権の裏面通史ともいうべき力作である。
大量破壊兵器の存在を最大の理由としてはじめられたイラク戦争。だが存在を確認でき証拠など最初からなにもない。「すべてが喜劇」「誤った想定、過度の楽観、リアリティの欠如」「ワシントンの畜生どもの頭が悪すぎる」などのことばが飛び交う権力者たち相互の不信や権謀術数。
かつてCH・W・ミルズは米国パワーエリートの不道徳を告発したが、現在は「帝国」の権力者たちのそれであるがゆえに世界を巻き込む。前号本欄で書評されているハーヴェイ『新自由主義』や昨年度JCJ新人賞の堤美果『アメリカ弱者革命』などと併せて読むと、この状況がより立体的に理解できよう。
ブッシュの戦争を支持した世界の政府は退陣に追い込まれている。当の米国でもすでに支持されてないことを示して本書は締めくくられている。変わらない日本は世界にどのように映るのであろうか。
吉原 功(明治学院大学教授)