ジャーナリストの運動としてとても大事なので、6月号の放送法の記事を全文掲載します。
民放、行政と取引?
放送法「改正」反対しぼむ
次期国会へ継続審議となる放送法「改正」案。もともと今回の改正はいわゆる「NHK改革」が柱で、NHK受信料の支払いを義務化するかどうかが最大の焦点だった。ところが、義務化と引き換えに現行受信料の引き下げを総務省に求められたNHKが難色を示したことから、義務化問題は先送りになってしまった。秋以降、この問題は再燃すると思われるが、現在の放送法改正論議は、中心となるべき課題を置き去りにしたまま行われている恰好だ。
代わって最大の焦点となったのは、「あるある大事典」捏造問題に端を発した、虚偽内容の放送を行った放送局に対する「再発防止計画」提出条項だった。現在の放送法制では、問題を起こした放送局に対しては、電波法76条にある「運用の停止命令」「免許の取り消し」という最も厳しい処分のほかには、ペナルティの明文規定が存在しない。最近頻発される「厳重注意」「警告」は行政指導の範囲内であって行政処分ではないので、総務省としては中間的な行政処分権限が欲しい、という要望もあったとみられる。
もちろん、放送番組などでの不祥事を重ねてきた放送事業者側が、こうした新たな規制案を呼び込んだという側面は否定できない。法改正を推進している菅総務相も、自分の考えは国民の考えと一致している、と豪語してはばからない有様だ。
その放送事業者のほうは、番組の内容や番組制作過程への行政の介入を容認する今回の放送法改正案に業界挙げて反対することを、4月の民放連臨時総会で確認した。また、この問題には直接関係しないNHKも、同様に反対の意向を明らかにしている。しかし、民放側の法改正反対の動きは、なぜかあまり活発でない。
その理由としては、改正法案が継続審議となって当面の危機が遠のいたという認識もあるだろう。しかし疑われるのは、行政と何らかの「取引」をして、もともと業界の要望だった「放送持株会社の解禁」や「ワンセグの独立利用」などを早期に実現させたい、という思惑が働いているのではないか、という点だ。もしそうだとすれば、言論・表現の自由を守るという看板は、やはり自分たちの「営業活動の自由」のための方便だったのか、と受け止められかねない。それは、深刻化するメディア不信をさらに取り返しのつかないものにするだろう。放送局は放送法改正の是非について、もっとスタンスを明確にすべきだ。