「ジャーナリスト」08年5月号から。
後戻りできない対外開放
中国で四川大地震報道を見る
四川大地震、生々しい映像からうかがうと、海外メディアの取材はある程度許されているようだが、中国国内の報道も気になる。5月後半に北京に滞在していた会員に報告してもらった。
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中国・四川大地震が起こった直後の5月後半、北京に滞在した。
四川省へは行けず、歯がゆい思いもした。しかし洪水のような大震災報道の中で、中国メディアをめぐる「報道のあるべき姿への方向性」をいくつか垣間見ることもできた。二つ例をあげる。
中国政府は大震災の翌日から連日、報道事務室が記者会見を開いた。犠牲者数、救援物資の到達状況などの報告のあと、省庁代表、ときには閣僚も出てきて、各役所の対応・施策を説明する。
質疑が集中したのは「学校があれほどもろかったのはなぜか。素材や工法が粗雑な〝おから工事〟のせいではないか」という点だった。この質問はまず欧米や香港メディアから出されることが多い。答弁は「調査を急ぎ、手抜きや不正・汚職があれば、断固として厳しい処置をとる」というものだった。
ところが追及の二の矢・三の矢が、チャイナデーリーなど政府系・当局系メディアの記者から飛ぶ。「調査結果はいつまでに発表するのか」「中央省庁の責任はないのか」。これまでの中国の記者会見ではほとんど見られなかった光景だ。
さらに印象的なシーンがあった。5月24日、2度目の被災地入りした温家宝首相が、屋外で内外メディアを前に即席記者会見に応じたのだ。中国首相の中国内での記者会見は、年1回、3月の全国人民代表大会最終日だけだった。その例が破られた。しかも首相自らがれきの上に立ちハンドマイクを持って。
首相は「住居」「防疫」「二次災害阻止」の3課題について説明。質疑は新華社(国営通信)、人民日報(中国共産党機関紙)などを制して、外国メディアを指名した。最後に首相は「〝人間第一〟という政治の基本と、メディアに対する対外開放という原則は、今後後戻りすることは決してない」
廃虚の中で内外記者に声を振り絞って訴えた中国の首相の言葉を、私はテレビを通じてではあるが、しかと見聞きした。その着実な前進は、期待できる、と思う。「後戻りはできない」のだ。
(大神一夫)