『ジャーナリスト』08年8月号から。
貧困が兵士を生む
映画「アメリカばんざい」
ドキュメンタリー映画は数多の社会問題を切り取ってきた。劇場公開や集会での映写などその伝達手段は限られていたが、現在ではDVD化で普及することも可能になった。
日の丸・君が代強制も辺野古の基地建設反対闘争もその他多くの運動が、記録者・表現者を得てドキュメンタリーが作られ、その上映運動が新たな運動の地平
9月5日までポレポレ東中野で公開中の「アメリカばんざい」(監督:藤本幸久)は、現代の状況の根底の問題、戦争をし続ける国アメリカを描く。舞台挨拶で藤本監督は、「海兵隊員にインタビューしても、応えれば彼らは軍規違反となる」とアメリカで兵士募集に反対する元兵士を中心に取材した意図を語った。
日本にもゆかりがある兵士はイラクヘ行くのを拒否したパブロ。パートナーが日本人の彼は、若者たちに大学進学を条件にした軍の勧誘がまやかしだと説明する。
PTSDになったダレルは高校時代、野球とデートに明け暮れた。TVドラマのような彼の青春は入隊で一変する。
劣化ウランの後遺症を訴える元兵士もいる。
劣化ウラン弾を発射するのは海軍、汚染された地上に行くのは陸軍兵士だという。
アメリカの基地被害も取材されている。テキサス州サンアントニオにかつてあった空軍基地の周辺住民には甲状腺ガンなどが異常に多い。
貧しい人が軍隊に入るが、戦場から帰還した兵士でホームレスになるものも多い。
ホームレス支援スタッフのトムも以前はホームレスだった。元陸軍兵士の彼は薬物中毒になる。
一部の金持ちが自分の利益のために戦争をし、戦場に行くのは貧しい人たち、とホームレス経験者自らが語るこの作品は、多くの人の募金を得て制作された。エンドロールに知人や団体の名を見ると映画の制作も上映も一つの運動なのだと思う。もちろん作品は反戦運動に随伴するものでない。海兵隊のブートキャンプの取材映像もあるが厳しい訓練風景ではなく入隊早々の点呼と剃髪が主だ。
隊員は「I、MY,ME」など一人称を使うことを禁じられる。一人ひとりの個性と人生を無化する軍隊の性格は、取材された多くの若者の個性とは対極にある。標準化された規律を持たねば、戦場で狂気のような殺戮はできないだろう。しかし、それは兵士の心を壊し、社会不適応な層を生み出していく。そうして自国民を消耗しながら戦争を続けるアメリカ。そのシステム全体が狂気をはらんでいる。