「ジャーナリスト」09年1月号「映画の鏡」を転載します。
フツーの若者の「叫び」
『遭難フリーター』
当事者意識欠く報道を問う
岩淵弘樹、23歳。目覚ましが鳴り、朝起きた彼が部屋のカーテンを開ける場面から始まるドキュメンタリーは、派遣労働者の彼が、監督でありカメラマンであり「主演者」である。
「派遣」問題など働く状況が破壊されている中で、今、最も「正面」からその本質をえぐった作品だと感じる。映画を観た後、多くの人が「この続きを、監督と会って議論したい」と思うのではないだろうか。
ユーロスペース
遭難フリーター
それは自分の日常に自らカメラを向けた「当事者メディア」だからと言えるかもしれない。「客観報道」という名の下に、少なからぬマスメディアが“評論家”のようになり「当事者意識」を欠いた報道を垂れ流している現実に、彼なりに対峙しようとする姿も描かれている。この生活から抜け出そうとあがき、デモに参加した彼は、テレビの取材を受ける。「かわいそうな負け組の現実」として報道するマスメディアに疑問を投げかけ、彼はその記者にもカメラを向けて問い直す。
マスメディアが描こうとする「問題」と、彼があがいている現実に、大きなギャップがあることをユニークな手法で描いている。メディアの原点がどこにあるのか、彼なりに提示しているのだ。
この作品を発表したのは2007年の山形国際ドキュメンタリー映画祭。「働く」ことが破壊された現代の社会・経済構造の中で、派遣労働の日常を生々しく映像にした彼の「叫び」に今、世間の注目が集まり、急きょ三月からロードショー上映されることになったわけだが、果たしてそんな世間の感覚を、彼は冷ややかに見ているのかもしれない。
この映画を「いま、一番リアルな青春映画だ!」と打ち出している感性にも注目しよう。
(鈴木賀津彦)
3月下旬よりユーロスペースにてロードショー、ほか全国順次公開