機関紙「ジャーナリスト」09年6月号から転載します。
大勢に流されず現実を疑え
原寿雄氏講演 取材の基本語る
84歳の現在も、現役のジャーナリストとして精力的に活動を続ける共同通信社元社長、原寿雄氏が5月23日、東京で講演し、「大勢に流されず、現実を疑ってかかることが大事」と訴えた。
講演会はNHKの元職員などでつくる市民団体「放送を語る会」が開いたもので、会場の東京・渋谷区の千駄ヶ谷区民会館にはおよそ50人が集まり、熱心に耳を傾けた。
「私の昭和史とジャーナリズム」をテーマに、原氏はまず、国に殉じる覚悟で生きた青年時代を振り返り、終戦を境に、寸分も疑わなかった価値観が180度転換する経験を経て「自由な空気への憧れ」を強く感じ、「自分に正直になれる仕事」としてジャーナリストを選んだ経緯を語った。
続いて「私にとってジャーナリストの原点」という「菅生事件」に触れた。1952年に大分県で起きたこの事件は、現職の警察官がスパイとして共産党に潜入、駐在所を爆破し、その罪を共産党員に押しつけたうえ、東京で潜伏生活を送るという悪質なものだった。
現場キャップとしてこの警察官の所在を割り出し、他に類を見ない冤罪事件であったことを世に知らしめたことで、「権力の監視」や「社会正義の実現」をお題目でなく、自らの血肉とした原氏は、取材の基本を「まず疑うこと」と力を込めた。
この論旨を踏まえた参加者との質疑応答で、原氏は「私利私欲に走る情報と、公共・社会性を重んずるジャーナリズムは違う」と情報の氾濫によるジャーナリズムの衰退に警鐘を鳴らした。
現場のジャーナリストに向けては「生きた魚になれ」と激励を贈った。これは内村鑑三の「死んだ魚は流れに従って流され、生きた魚は流れに逆らって泳ぐ」という言葉が下敷きになっている。大勢に流されず、自分の良心に従って取材し、記事を書け、ということだ。
さらに「良心」についても「良心的であることと、良心を発動することは別。インテリ自覚に基づく逃げはやめよう」と断じた。大手メディアの高学歴ジャーナリストには耳の痛い言葉だった。
ときに苦言を呈しながらも、ジャーナリズムの未来を信じる原氏の強い信念が伝わるものだった。
(Y)