機関紙j「ジャーナリスト」2011年4月号から、マスコミ時評・出版を転載します。
「最悪の事態」を予想した人もいた
未曽有の大震災と人災のなかで、ジャーナリストは何をなすべきか。
チェルノブイリ原発事故を取材してきた広河隆一氏らフォト・ジャーナリストは、いち早く東京電力福島第1原 原発事故の現場に直行した。「前衛」5月号で森住卓氏が写真と記事で「安全神話崩壊の町」を伝えている。
森住氏が、インタビューした被災者の名前と仕事を聞こうとしたら、「原発の放射線管理の会社に行っているので名前は公表しないでと言われた」という。
「世界」5月号でも豊田直巳氏が原発周辺の取材経過を明らかにしている。原発で働く人々の生活をも脅かし、人命を弄ぶ原発災害の実態を告発していく必要があるだろう。
その「世界」は、総合誌として異例の早さで東日本大震災・原発災害の特別誌面「生きよう!」を組んだ。なかでも「ジャーナリズムの社会的責任」に言及した宇宙物理学者・池内了氏の論考に注目した。
池内氏は、「自衛隊員や消防隊員の放射線被曝については報道しているのに、福島原発の現場での作業員の莫大な放射線被曝について報道されることが少ない」と指摘し、「劣悪な労働を強いられる人々に関する報道がないのはジャーナリズムの怠慢ではないか」と手厳しい。
週刊誌「フライデー」編集部などが奮闘して、福島第1原発の最前線で過酷な作業にあたる人々を取材しているが、被曝線量については口を閉ざす傾向が強いようだ。こうした沈黙の背景には原発関連企業特有の事情があると推測されるし、首都東京に「派遣村」が出現する劣悪な労働状況に切りこむ取材が少ないことも反映しているのかもしれない。
池内氏は、最近のマスメディアが「体制批判、社会的弱者の視点、少数者の意見、反対派の議論などを取り上げることがめっきり少なくなったと感じている」とも述べている。その意味で、大震災・津波による原発の全電源喪失、冷却機能の喪失という最悪の事態を予想した人たちがいたことを忘れてはならない(例えば、地震学者の石橋克彦氏、原発問題住民運動全国連絡センターの柳町秀一氏、日本共産党の吉井英勝衆院議員ら)。
放射線による内部被曝に詳しい矢ヶ崎克馬氏は「週刊金曜日」(4月8日号)で、「米国の核戦略が被害を隠した」と告発している。広島・長崎への原爆投下、日米安保条約の歴史は、原発災害ともつながっているのである。
荒屋敷 宏