「JCJ機関誌「ジャーナリスト」2012年5月号から転載します。
労働者の権利守らない地裁労働部
横行する不当判決
北 健一 (ジャーナリスト)
「こんな判決を出すのなら、東京地裁労働部は『労働部』の看板を下ろすべきだ」
自由法曹団前会長の菊池紘弁護士がある集会で語ると、会場から「そうだ」と声が上がった。
東京地・高裁では、労働者に冷たい判決が相次ぐ異常事態が起きている。代表事例は日本航空(JAL)だ。 同社は、会社更生手続き中とはいうものの空前の利益をあげた年度途中に、パイロットと客室乗務員(CA)165人を整理解雇した。稲盛和夫会長(当時)さえ、「経営上、解雇は必要なかった」と明言したのに、東京地裁は3月29日と30日、「解雇は有効」との判決を言い渡す。
2010年大晦日に解雇されCA原告団に加わった神瀬麻里子さんは、「なぜ?」という想いで、胸が一杯になった。
整理解雇4要件の解釈の誤りについては研究者も含め批判は多いが、事実認定も杜撰だ。
たとえば「『直前の病欠』を解雇基準にした点」について、原告は、そんなことをしたら体の不調を正直に申告できなくなり、空の安全が脅かされると主張したが、判決は、「にわかに想定し難い」と切って捨てた。
ところが判決の3ヵ月近くも前、凍てついた旭川空港で乗務前に転倒し肋骨を折った機長が、無理を押して副操縦士とともに羽田まで操縦した「骨折フライト事件」が起きた。「想定外」は、すでに現実化している。
日本IBMに退職強要を受けた社員たちが起こした裁判でも、昨年12月28日、原告敗訴の判決が出た。裁判で原告らは、机を叩き、蹴り、ペットボトルを振り回して退職を迫る常軌を逸した上司の言動を録音によって立証した。それについて判決は、「(会社を辞めないという)不誠実な回答に終始する原告に対する苛立ちの現れとしての軽微な動作又は癖(貧乏揺すり)にすぎなかった」と認定。2ヵ月で1500人もの社員を退職に追い込んだ外資系大企業に〝お墨付き〟を与えた。
原告の大岡義久さん(JMIU・IBM支部委員長)は、「労働者を守れない裁判所は、死んだも同然です」と怒る。神瀬さん(前出)は、「日本中の首切りにJAL判決で勢いがついたのではと思うと、悔しくてなりません」と唇を噛む。
裁判官は、骨折した機長の操縦する飛行機に乗りたいのか。わが子が、密室で上司から脅かされても、何も感じないのか。そんな疑問すら、湧く。
もうこれ以上、現場で汗する人を無視した、無惨な判決は聞きたくない。