07年7月号のリレー時評から抜粋。 (すみません。最新号なので抜粋です)吉原功さんは明治学院大学教授。
生活保護行政に見る新自由主義
吉原功(JCJ運営委員)
北九州市でまたも生活保護に関連する悲惨な事件が発覚した。同市では昨年5月にも身体障害者の56歳の男性が生活保護を二度求めたのに申請書すらもらえず餓死するという事件が起ったが、今月11日、生活保護を打ち切られた52歳の男性が孤独死しミイラ化して発見されたのである。昨年10月までタクシー運転手をしていたこの男性は糖尿病や肝臓病のため仕事をやめ12月末から生活保護を受けていた。ところが本年4月、福祉事務所が生活保護を打ち切る。「働く意思を示した」からとのことだが、日記には「働けないのに働けといわれた」という主旨の記述が複数あったという。
(中略)
いうまでもなく、こうした行政は、生存権を保障した憲法二五条違反である。それを国家が推奨し末端の行政が忠実に実行する。九九条の規定にもかかわらず憲法を遵守せず、ついに改変を日程に上らせた政府とそれに異議を申し立てられない末端の行政。見事に併走しているではないか。重要なのはこの日本の姿が新自由主義グローバリゼーションという世界的な流れの一環であるということだ。D・ハーヴェイが慧眼にも主張したようにこの潮流は「階級権力」の再構築をめざしている。貧困と格差をさらに拡大し戦争をこととするような階級社会に日本をしてしまわないようメディアはその認識能力を数段研ぎすまさねばなるまい。