「ジャーナリスト」8月号から、月間マスコミ評・出版 「歴史認識の深化を促す企画」を掲載します。
JCJホームページにも掲載されています。
歴史認識の深化を促す企画
荒屋敷 宏
今年は日中戦争開始から76年、南京大虐殺70年である。『世界』8月号、『論座』9月号も、日中戦争や歴史学をめぐる特集を組んだ。大書店の戦争特集コーナーを見ると、日本近現代史を多様な角度から問う本が増えた印象を受けた。
史学会(東京大学文学部内)発行の『史学雑誌』は毎年5月、前年の歴史学界の成果を整理する。「近現代 総論」の項を担当した中村政則氏は、戦争史、通史・歴史叙述、歴史認識、歴史教育を考察し、「冷戦崩壊後、一時期元気を失った歴史学が、21世紀に入って再活性化しつつあることを実感した」と指摘する。背景に何があるのだろうか。
岩波書店は昨年、岩波講座『アジア・太平洋戦争』(全8巻)を完結させ、新書で現在、〈シリーズ 日本近現代史〉(全10冊)を刊行中である。吉田裕氏と森茂樹氏の共著『アジア・太平洋戦争』(吉川弘文館)も刊行された。
『世界』や『論座』で歴史学の特集があり、講座やシリーズが出る背景には、侵略戦争を正当化し、アジアの平和と日本外交に打撃を与える者らへの対抗を意識する編集者と歴史学者の共同と奮闘があるだろう。
今から10年前は違った。書店では、歴史学の専門家ではない「新しい歴史教科書をつくる会」グループの本が幅をきかせていた。戦争遂行者が使った「大東亜戦争」という呼称にこだわる彼らは、従来の歴史教科書を「自虐史観」と攻撃した。改憲を叫ぶ小泉政権のもとで教科書もつくった。
しかし、「つくる会」教科書の学校での採択率は1%に満たない。いまや、歴史教育者らの反撃の前に、「つくる会」は混迷を深めている。
とはいえ、日本軍に「集団自決」を強制された沖縄の人々の体験をあいまいにする文部科学省の検定など、歴史教科書への攻撃はつづく。この検定を担当した調査官が「つくる会」歴史教科書・改訂版(扶桑社)の監修者を代表とするグループに所属していた経歴をもつことに出版関係者の注意を喚起したい。
もう一つ日本近現代史の再活性化を促す切実な理由があると思う。それは、高齢化した元兵士たちが歴史学者の調査やジャーナリストの取材に応じ、語り出したことだ。背景には、いくつかの「戦友会」の解散があると指摘する学者もいる。お互いの監視で口をつぐんできた元日本兵からの「聞き書き」のラスト・チャンスが今なのだ。
財団法人史学会
岩波書店
吉川弘文館