2月号の書評から
『〈つくる会〉分裂と歴史偽造の深層』 (俵義文著 花伝社)
「つくる会」と教科書検定の最新の状況
本書は、教科書問題の最前線で活躍する著者が、当面の歴史教科書をめぐる問題で、いま知っておきたい重要なポイントを系統的かつコンパクトにまとめたものである。本書一冊を読めば、それぞれの問題の由来から現在まで、その全体像をつかむことができる。
一章はよく知られている「つくる会」分裂の問題にあてられている。なぜ分裂したのか、それであの「つくる会」教科書はどうなるのか、誰しも知りたいところが、くわしく説明されている。
二章は、問題の根源にある右翼勢力の組織と人脈の全体像を明らかにしている。歴史歪曲をはびこらせているメディアの状況を批判している部分も重要である。また、安倍政権よりはいくらかましと思われている福田政権も実はタカ派政権であることを閣僚の実態分析から明らかにしている。
三章とあとがきでは、沖縄戦検定問題と、そこから浮かび上がってきた教科書検定制度の問題を、最新の状況にもふれつつ解明している。検定制度の欠陥は沖縄戦問題を通じてかなり明らかになってきた。検定制度の廃止を展望しつつも、当面の抜本的改革を行うとすれば、著者が強く主張するように、文科省官僚である教科書調査官が検定を主導する制度にまずメスを入れなければなるまい。
新学習指導要領がまもなく告示され、それにもとづく教科書が、新たに参入する八木秀次派の育鵬社版もふくめて検定・採択を迎えることになる。沖縄戦検定問題もいまだ解決していない。そうしたなかで、本書を糧に、歴史の偽造にもとづく戦争国家づくりに対する新たな闘いのうねりをおこしていきたい。
石山 久男(歴史教育者協議会委員長)