機関紙「ジャーナリスト」08年6月号から。
書評 『宝の海を取り戻せ 諫早湾干拓と有明海の未来』 松橋隆司 著
公共事業を食い物にする政・官・業
の癒着「 徹の三角形」の実態を暴く
宇野木早苗(日本海洋学会名誉会員)
農林水産省の諫早湾干拓事業後に、海洋環境は崩壊し漁業は衰退する深刻な有明海異変が発生した。魚介類は激減して漁獲は乏しく、漁民は借金を返せず、自殺者や廃業者が出て漁業の将来に大きな不安を抱いている。本書はこの厳しい現実を的確に捉え、発生原因を鋭く追及し、宝の海を取り戻す道を探っている。生物学と数学を学んで科学記者となった著者の筆は、実証的で非常に分かりやすい。海の姿を最もよく知る漁師からの聞き取りに努め、彼らが語る事実は重く胸に迫る。漁師に注ぐ著者の目は温かい。
農水省が強引な論理で推進した干拓事業の実態を本書は明確に示す。例えば読者は、減反時代に巨額経費と環境破壊を伴う干拓事業が何故実施できたかに疑問をもつだろう。これは沿岸防災対策という錦の御旗が突如立てられて、人の命に換えられないと反対の旗を下ろさざるを得なかったためである。だが実際は羊頭狗肉で、一九五七年の諫早大水害級の洪水被害は無くなると宣伝されたが、脅威は去らずに洪水ハザードマップが公表されている。そして事業推進の根底に、公共事業を食い物にする政・官・業の癒着、鉄の三角形の存在が明白に暴き出されて、読者は事実に慄然とし、何をなすべきかを問われるだろう。
本書の特徴は、末尾補論の漁師、研究者、弁護士の三氏に対するインタビューに最もよく現われている。漁業環境の悪化、再生への展望と手順、真の公共事業のあり方がそれぞれ丁寧に語られていて、読者は深くうなずくはずである。
(新日本出版社 1600円)